2012年度談話会記録

updated on 2014年04月04日 3:16 pm

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第243回

松岡健之 招聘研究員

宇宙科学研究所

先進プラズマロケットの紹介
6月6日 11:15〜12:30 16号館5階16−501教室
  小惑星探査機”はやぶさ”に搭載されたイオンエンジンは、推進剤ガスをプラズマ化して加速することにより推力を得る電気推進の一種です。本研 究が目指すのは、イオンエンジンと同等かそれ以上の性能を持ち、より長寿命の推進機を開発することです。長寿命な推進機ができればより野心的な ミッション、たとえば木星周回衛星や月への大量物資輸送、火星往復ミッションなどが可能となり
ます。
  イオンエンジンの場合に寿命は次の二つの要因で決まります。第一は加速電極の損耗であり第二は中和器の機能低下です。このうち加速電極の損耗は プラズマと加速電極が接触しているのが原因となります。したがって、プラズマを非接触で生成し加速できる中和器のいらない電気推進機を開発できれ ば本研究の目的を達成できると予想されます。
  電気推進機の性能は比推力と、効率で評価されます。ここで効率は推力パワーを投入電力で除した値で定義されます。比推力と効率は、推進機が発生 する推力を計測して評価しますので推力計測は必須です。現在JAXAでは推力計測システ
ムの開発を行っており、その一部である推進機のプラズマ源 が完成しました。
講演ではプラズマ源の開発経緯について紹介します。
  なお、本研究は、科学研究費補助金 [基盤研究(S) 21226019]の補助により実施されており、東京農工大学、宇宙航空研究開発機構、東海大学、九州大学、ウクライナINRの共同研究{通称 HEAT(Helicon Electrodeless Advanced Thruster)
プロジェクト}の一環です。
  また、講演では木星以遠あるいはさらに遠くへ到達するために必要となる核融合ロケットについて、米国と九州大学の研究を紹介します。
第244回 竹下 秀 准教授 青色光障害と青色光傷害
10月10日 10:00 - 11:00 J館2階 第5研究室  
 日本国内では、白熱電球や蛍光灯から、白色LEDへと照明光源が急速に切り替わりつつある。これに伴い、白色LEDから発せられる青色光の障害が、社会的関心事となっている。青色光による“しょうがい”は、“障害”と“傷害”に区分される。ただし、両者ともに、光の波長と量が、その作用量に影響を与える。
  青色光障害は、生体リズム障害など生理作用に変調をきたすものであり、生体リズムをコントロールするメラトニン分泌リズムが青色光によって変調をきたされて発生する。光源の発達と人間生活の多様化によって障害が発生したと考えられる。
青色光傷害は、光化学反応による傷害であり、網膜の加齢性黄斑変性がその代表例とされている。市販されているLED電球及び直管LED電球の青色光傷害を評価した結果、いずれの光源も安全レベルにあった。しかし、LED電球の拡散グローブを外すとリスクは増大した。なお、太陽光は照明用光源と比較すると極めて危険であることが明らかになった。
第245回 谷川 隆夫教授 泡状プラズマとプラズマロケットエンジン
11月14日 10:00 - 11:00 J館2階 第5研究室

 地球上では特殊な環境下でしか存在しないが、宇宙全体では目に見える物質の殆どを占めるプラズマは、ちょっとした擾乱に対して大きな密度変調を生じ易い。特に強い擾乱に対しては言わずもがなで、例えば強いラングミュア乱流と言われる状態にあるプラズマ中にはキャビトンと呼ばれる低密度部位があたかも泡の様にプラズマ中に分散している。泡状プラズマが核融合プラズマ、宇宙空間プラズマなど色々なところに存在する証拠は多々ある。しかしながら、泡状プラズマの特異性に気付いている研究者は少ない。プラズマ物理に新たなパラダイムを導入すべく泡状プラズマの物理現象解明に向け研究を進めている。
 泡状プラズマが生じる過程で重要な役割を果たすものに“ポンデロモーティブ力”という非線形力がある。この力を利用してプラズマを効率よく加速し、長寿命のプラズマロケットエンジンに利用しようという研究も進めている。九州大学で理論・シミュレーションによる検討を、その知見を生かして東海大学で実験研究を進めている。因みに、このプラズマロケットエンジンの研究は、東京農工大学の篠原教授をリーダーとするHEAT (Helicon Electrodeless Advanced Thrusters) プロジェクトの一環である。

第246回 横山 直樹教授

GPUによるプログラムの高速化

行列計算を例として

12月19日 10:00 - 11:00 J館2階 第5研究室 PDF
 
 高速度ビデオ記録装置で得られた動画像を対象とし、興味のある対象あるいはその部位が、時間とともにどのように変位していくかをコンピュータを用いて解析するプログラムを開発している。対象部位の位置をサブピクセルの精度で求めるためには、画像の一致度を計算する必要があり、対象部位をとりまく画素数が大きい場合や部位の数が多い場合には、最新のコンピュータを用いても計算負荷が重く、処理時間がかかる。この画像の一致度は相互相関係数を求めることで評価するが、計算を工夫することで並列化が可能である。つまりCPUやGPUを活用して並列分散処理を行うことで、処理時間を大幅に短縮することができる。前回までで、ネットワークを用いた分散処理をPCやスーパーコンピュータの場合について紹介してきたが、今回は特に最近注目されつつあるGPUを用いての分散処理をおこない、その有効性について検討した同等なコストのCPUに対してGPUは数倍の計算処理能力を持つことがわかった。今回はより一般的な場合(行列計算)において、CPUでの高速化とGPUでの高速化の比較を実例でデモする。

2011年度記録